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広島地方裁判所呉支部 昭和47年(ワ)145号 判決

原告 川尻実

被告 国 ほか一名

訴訟代理人 金沢昭治 井上輝司 ほか三名

主文

1  原告所有の別紙目録(一)(二)記載の土地と被告国所有の別紙目録(三)記載の土地との境界は別紙図面ヘ、ト、チ、リ、ヌ、ルの各点を順次直線で結ぶ線であることを確認する。

2  被告尾崎信一は原告に対し別紙図面イ、ロ、ハ、ヲ、チ、リ、ヌ、ル、イの各点を順次直線で結ぶ線内の土地を、同地上の鶏舎その他の物件を収去して、明渡せ。

3  原告の被告尾崎信一に対するその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

一  原告は主文1、4項同旨および「被告尾崎信一は原告に対し別紙図面イ、ロ、ハ、ヘ、ト、チ、リ、ヌ、ル、イの各点を順次直線で結ぶ線内の土地を、同地上の鶏舎その他の物件を収去して、明渡せ。」との判決を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

(一)  別紙目録(一)(二)記載の土地(以下原告所有地という)は原告の所有である。

(二)  別紙目録(三)記載の土地(以下被告国所有地という)は被告国の所有である。

(三)  被告国は原告所有地と被告国所有地との境界は別紙図面ヘ、ハ、ロ、イを順次結ぶ線であると主張する。

(四)  被告尾崎信一は別紙図面イ、ロ、ハ、ヘ、ト、チ、リ、ヌ、ル、イの各点を順次直線で結ぶ線内の土地(以下本件係争地という)を、被告国から借受けたと称し同地上に鶏舎等を建てて、占有している。

(五)  原告所有地と被告国所有地との境界は別紙図面ヘ、ト、チ、リ、ヌ、ルを順次直線で結ぶ線であつて、本件係争地は原告の所有である。

二  被告国は「原告所有地と被告国所有地との境界は別紙図面イ、ロ、ハ、ヘ、ホを順次直線で結ぶ線であることを確定する。訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決を求め、請求原因に対する答弁として次のとおり述べた。

(一)  請求原因(一)(二)(三)の事実を認める。

(二)  被告国は被告尾崎信一に対し昭和四〇年七月五日以降別紙図面イ、ロ、ハ、E、D、C、B、A、ル、イを順次結ぶ線内の土地二〇七・五七平方米を賃貸している。

(三)  請求原因(五)の事実を争う。原告所有地と被告国所有地との境界線は別紙図面イ、ロ、ハ、ヘ、ホを順次直線で結ぶ線である。被告国所有地は昭和一三年三月二二日に旧海軍省が原告から買受け、原告所有地から分筆されたもので、右境界線はそのとき決り、昭和四〇年三月二六日にも確認されたものである。なお、国有財産台帳付属配置図(〈証拠省略〉)は原告主張の境界線と合致するが、昭和四〇年三月二六日に旧海軍省買受時の関係者訴外上田正男が現地で被告国主張の境界線を指示説明し、これに立会つた原告も右指示を承認するように見えたので、原告との境界協議書を作る必要がないとの判断により、国有財産台帳の訂正(〈証拠省略〉)がなされた。

三  被告尾崎信一は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決を求め、請求原因に対する答弁として次のとおり述べた。

(一)  請求原因(一)(二)(三)の事実を認める。

(二)  被告尾崎信一は被告国から昭和四〇年七月五日以降別紙図面イ、ロ、ハ、E、D、C、B、A、ル、イを順次結ぶ線内の土地二〇七・五七平方米を賃借して占有している。

(三)  請求原因(五)の事実を争う。

四  証拠関係〈省略〉

理由

一  原告が別紙目録(一)(二)記載の原告所有地を、被告国が同目録(三)記載の被告国所有地を各所有していることは当事者間に争いがない。そして〈証拠省略〉によれば、被告国所有地は昭和一三年三月二二日に被告国(旧海軍省)が原告から買受け、同年六月二〇日に原告所有地から分筆された土地であることが明らかである。

二  本件証拠として提出された図面は次の四種に分かれる。

(1)  (公図)(〈証拠省略〉)すべて同一のいわゆる公図の写であつて〈証拠省略〉がもつとも見易い。〈証拠省略〉によれば基本公図は明治四二年頃作成と認められ、原告所有地と被告国所有地との境界線は昭和一三年分筆のころ記入されたものと推測される。

(2)  (実測図A)(〈証拠省略〉)。昭和三九年三月調製と記載のある〈証拠省略〉を基本とすると思われる同一図面であつて、この図面の原告所有地と被告国所有地との境界線は原告主張の境界線と一致する。〈証拠省略〉によれば、この図面は、本件係争地を除き、被告国が現在民有地と国有地との境界線として扱つている図面と認められる。

(3)  (実測図B)(〈証拠省略〉)昭和四〇年三月二九日調製と記載のある〈証拠省略〉を基本とすると思われる同一図面であつて、この図面の原告所有地と被告国所有地との境界線は被告ら主張の境界線と一致する。〈証拠省略〉によれば、この図面は実測図Aのうち原告所有地と被告国所有地との境界線を被告国が修正したものと認められる。

(4)  (その他)乙第四号証、〈証拠省略〉は作成年月日不詳の小用秋月線道路新設改良工事図で、旧町道と新道に限られ、民有地国有地の境界線は記されていない。乙第四号証は昭和三四年三月三一日調製と記載された国有地らしき図面で、〈証拠省略〉の新道にほぼ相当する道路敷のほか係争地近隣の国有地境界も記入されている。

三  本件の基本的争点は原告所有地と被告国所有地の境界はどこかという点であつて、より具体的に言えば前項のどの図面に依拠するかの問題とも言えるので、以下この点について検討する。

(一)  前記公図の民有地国有地の境界線は極めて単純であつて、前記実測図A、実測図B、乙第四号証のいずれとも形状において相当に異なつており、公図どおりの線を現地に当てはめるとどうなるか不明であるうえに後記(三)の事実を考えれば、本件においては直接これに依拠しがたい。なお昭和一三年旧海軍省買受当時の実測図は証拠になく作成されたか否かも不明である。

(二)  前記乙第四号証の境界線も前記公図、実測図A、実測図Bのいずれとも相当に異なつており、その作成の目的、経緯が不明であつて、これも本件において依拠するのは相当でない。

(三)  実測図Aは、〈証拠省略〉によれば、少くとも昭和三九年七月二三日以降被告国が民有地国有地の境界を示すものとして扱つている図面であること、ただし原告所有地と被告国所有地の境界に限り昭和四〇年四月九月以降実測図Bによつて修正していることが認められる。実測図Aは昭和三九年三月調製と記され、その以前の扱いは明確でないが、同図面の写は町役場にも保存されていた(〈証拠省略〉)と認められる。なお〈証拠省略〉によればこの境界測量には民有地所有者も立会つた形跡はあるが、民有地所有者との協議によつて確定されたものと認めるべき証拠はない。

(四)  実測図Bは前認定のとおり昭和四〇年三月二九日調製され、実測図Aのうち原告所有地と被告国所有地との境界線を修正したものとして被告国が扱つている図面である。

以上の点を綜合すると、民有地と国有地の一般的境界は前記実測図Aに依拠し、本件係争の境界は実測図Bによる修正が妥当かつ合理的であれば同図に、そうでなければ実測図Aに依拠して判断するのが相当である。

四  そこで実測図Bについて検討する。

(一)  〈証拠省略〉と弁論の趣旨(被告尾崎信一の昭和四九年九月三〇日付準備書面)によれば、原告は昭和二四年ごろ被告尾崎信一に本件係争部分を含む原告所有地の一部を賃貸し、同被告がこれを耕作していたが、同被告はその後訴外上田正男の意見をきいて係争土地を国有地と考え、また昭和三六・七年ごろ別紙図面の建物を建築したりして原告と紛争となつていたことが認められる。同被告はそこで被告国に国有地の賃借を申し出たものと推測され、〈証拠省略〉によれば、昭和四〇年三月ころ被告尾崎信一が無断使用していた国有地を正式に賃貸借するにつき現地を見たところ、持参した実測図Aの境界線よりも建物の一部が出ているので疑問を抱き、同年三月二六日現地において前記上田正男の指示にもとづいて実測図Bを作成したことが認められる。〈証拠省略〉によれば、右上田正男の境界指示の際原告と南側隣接地主訴外岡本が立会つたが、ともに沈黙していたことが認められる。

(二)  このように実測図Bはもつぱら訴外上田正男の現地指示に基くものと認められるところ、〈証拠省略〉によれば右訴外人は旧海軍省買受の当時に立会い、測量の経験もある町会議員で、旧海軍省買受の土地に詳しいと言われていたと認められるにとどまり、旧海軍省買受当時の立場も、また前記指示にあたり何を基準として指示したかも判明せず、さらに前記事情からみると原告と被告尾崎信一との紛争の関係者とも言える。前記乙第四号証、〈証拠省略〉によれば、現地附近は旧海軍省買受後に町道その後県道の改修工事や水害による地すべりもあつて状況は変化していると認められるところ、買受後二七年を経た昭和四〇年三月における訴外上田正男の指示の正確さを担保するものがない。

(三)  実測図Aにおいては民有地国有地の境界は係争土地附近において連続しているが、実測図Bによれば原告所有地と被告国所有地の境界は、とくに南側隣接地の境界から、突出す形状となる(その結果原告所有地は七四坪余減る)。前記公図の境界線は南側隣接地の境界線と連続する直線となつており、前記乙第四号証においても南側隣接地の境界線と連続していることを考えると、一般的な民有地国有地の境界は実測図Aに依りながら、原告所有地との境界だけは実測図Bによるのは、明らかに妥当でない。

(四)  前記昭和四〇年三月二六日に原告と被告国との間に実測図Bの境界の合意確定があつたか否かを判断するのに、〈証拠省略〉にはその趣旨の記載があるが、〈証拠省略〉によれば前記訴外上田正男の指示に際し原告が黙つていたので反対はないものと考えただけで合意書も作つていないことが認められ、〈証拠省略〉によれば訴外上田の指示はおかしいと思つたが、反証を持つていないので黙つていたにとどまることが認められるので、当日合意による確定がなされたと言うことはできない。

五  以上の理由によつて、実測図Bによる修正は妥当かつ合理的な根拠のあるものと認められず、実測図Aに依拠して判断するのが相当である。したがつて原告所有地と被告国所有地との境界は原告主張のとおりと判断する。

六  よつて境界の確認と被告尾崎信一の退去を求める原告の請求は理由がある。ただし、原告は本件係争地全体について被告尾崎信一の占有があると主張しているが、被告らはその一部のみ占有していると述べ、〈証拠省略〉によれば被告尾崎信一の占有部分は本件係争地のうち別紙図面イ、ロ、ハ、ヲ、チ、リ、ヌ、ル、イの各点を順次直線で結ぶ線内の土地と認められるから、その余の部分は理由がない。よつて、訴訟費用について民事訴訟法第八九条第九二条を適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 花田政道)

目録

(一) 安芸郡江田島町字中小用二四〇三番三 畑 一、〇六五平方米

(二) 安芸郡江田島町字中小用二四〇三番一二    二〇一平方米

(三)安芸郡江田島町字中小用二四〇三番一一 雑種地 四七六平方米

図面〈省略〉

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